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東京高等裁判所 平成4年(行ケ)110号 判決 1994年10月26日

埼玉県富士見市鶴瀬西3丁目15番48号

原告

有限会社水光社

代表者取締役

小出茂

訴訟代理人弁護士

山田靖彦

埼玉県三郷市早稲田7丁目17番地16

被告

永瀬憲治

訴訟代理人弁理士

井上清子

亀川義示

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成3年審判第3305号事件について、平成4年4月2日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

被告は、名称を「鍵盤楽器」とする特許第1584923号(以下「本件特許」といい、その発明を「本件発明」という。)の特許権者である。

原告は、平成3年2月27日、本件特許について無効審判を請求したが、特許庁は、同請求を同年審判第3305号事件として審理したうえ、平成4年4月2日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年5月11日、原告に送達された。

2  本件発明の要旨

5音音階を主体に配列した鍵盤を有し、性格の異なる2つの5音音階の鍵盤を組み合わせたことを特徴とする鍵盤楽器。

3  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本件発明の「性格の異なる2つの5音音階の鍵盤を組み合わせた」という構成は、「性格の異なる2つの5音音階を演奏するための鍵盤を上段と下段にそれぞれ配列する」鍵盤配列を規定したものと解釈すべきであって、原告が提出した刊行物(審判事件甲第1~3号証、第5~第14号証、以下、これらの刊行物を審判事件の甲号証番号の順に、「引用例1~3、5~14」という。)及び本件特許出願前の我が国において製造販売されたと認められる楽器「詩吟トレーナーST-10」には、本件発明の「性格の異なる2つの5音音階を演奏するための鍵盤を上段と下段にそれぞれ配列する」構成については何ら開示もしくは示唆がないから、特許法29条1項1号ないし3号及び同条2項に該当しないとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本件発明の要旨の認定、各引用例の記載内容の認定、「詩吟トレーナーST-10」が本件特許出願前に我が国において製造販売されたとの認定は認める。

しかし、審決は、本件発明の要旨の解釈を誤り(取消事由1)、本件発明が公知公用のものであり、また、各引用例から容易に発明できたものであるのに、これら無効事由を看過し(取消事由2)、誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  取消事由1(本件発明の要旨の解釈の誤り)

本件特許請求の範囲には、「5音音階を主体に配列した鍵盤を有し、性格の異なる2つの5音音階の鍵盤を組み合わせたことを特徴とする鍵盤楽器」と記載されているのであって、5音音階を主体に配列した鍵盤を2列又は2組有しなくてはならないとか、あるいは5音音階の鍵盤をそれぞれ具えた性格の異なる二つの5音音階の鍵盤列を配列したものでなくてはならないとまでは、何ら規定されていない。

また、本件明細書(甲第3号証)中には、「第7図に示すような組み合わせにおいて、宮音の位置を上下一致させると共にそれぞれの宮音の音の高さを同一にすると、第10図に示すような鍵盤の配列となる。なおこの場合同じ高さの上下の鍵盤を一つにしてもよい。」と記載されている(同号証4欄26~31行)。

本件明細書の上記記載及び第10図によれば、第10図の一点鎖線は、上段と下段にまたがるような形態で同じ高さの上下の鍵盤を一つにしてもよいといっているのではなく、単に共用してもよい上下の鍵盤を示しているにすぎないことは明らかである。

さらに、上記第10図及びそれに関連する記載から、本件発明は、そもそも上下二段に配列された鍵盤はそれぞれ併用されるものであること、及び併用されうることを前提としているものというべく、その意味から、本件発明にいう「性格の異なる2つの5音音階の鍵盤を組み合わせた」とは、かかる併用により性格の異なる二つの5音音階を演奏できる鍵盤楽器をも包含しているものといわざるをえない。

しかも、本件発明は「5音音階の鍵盤を組み合わせた」と規定しているのであって、「5音音階の鍵盤のみを配列した」とはいっていない。そして、そこにいう「5音音階の鍵盤」とは、「5音音階の音楽を演奏するための鍵盤」を意味していることはいうまでもない。

そうすると、本件発明にいう「性格の異なる2つの5音音階の鍵盤を組み合わせた」とは、性格の異なる5音音階を演奏するための鍵盤の組み合わせにおいて、ある性格Aの5音音階を演奏するための鍵盤列が1組又は1列あれば、それと性格の異なるもう一つの5音音階を演奏するための鍵盤は同じ高さの音の鍵盤を省略し、上記性格Aの5音音階を演奏するための鍵盤と共用するようにしたものであってもよく、いずれにしても性格の異なる二つの5音音階を演奏するための鍵盤(それのみを演奏するためのものに限らない。)が設けられていればよいのである。

しかるに、審決は、本件発明の「性格の異なる2つの5音音階の鍵盤を組み合わせた」という構成は、前記のとおり、「性格の異なる2つの5音音階を演奏するための鍵盤を上段と下段にそれぞれ配列する」鍵盤配列を規定したものと解釈すべきである、との誤った判断をした。

2  取消事由2(無効事由の看過)

引用例2(甲第5号証)に記載されている「詩吟用コンダクター」、引用例8~12(甲第11号証~第15号証)に記載されている「邦楽コンダクター水晶」及び引用例13、14(甲第16号証、第17号証)に記載され、本件特許出願前に製造販売された「詩吟トレーナーST-10」は、いずれも、鍵盤を操作(押し下げ)することにより音楽又は楽曲を演奏するための楽器であり、本件発明にいう鍵盤楽器に該当することはいうまでもない。

この「詩吟用コンダクター」及び「邦楽コンダクター水晶」の下段の鍵盤配列(いずれも、ラ、シ、ド、ミ、ファ、ラ、シ、ド、ミ)は明らかに詩吟の音階である陰旋律5音音階の鍵盤配列であり、また、「詩吟トレーナーST-10」の下段の鍵盤配列(ミ、ファ、ラ、シ、ド、ミ、ファ、ラ、シ、ド)も陰旋律5音音階の鍵盤配列であるから、これらの楽器が本件発明にいう「5音音階を主体に配列した鍵盤を有する鍵盤楽器」であることは明らかである。

ところで、「詩吟用コンダクター」の上段に配列されている鍵盤は、レ、ファ#、ソであり、また、「邦楽コンダクター水晶」の上段に配列されている鍵盤はファ、レ、ファ#、ソ、レであり、「詩吟トレーナーST-10」の上段に配列されている鍵盤はソ、レ、ファ#、ソ、レである。

これらの各上段の鍵盤配列は、いずれも、その上段に配列された鍵盤のみを見る限り、それだけでは5音音階の鍵盤、つまり5音音階の音楽又は楽曲を演奏するための鍵盤配列になってはいないが、これらの楽器の上段に配列された鍵盤は、下段の鍵盤と同じ高さの音は下段の鍵盤を用いることを予定しているものである。換言すれば、これらの楽器において上段に配列された鍵盤は、下段の陰旋律5音音階とは別の音階(すなわち、陰旋律5音音階とは性格の異なる5音音階又は5音音階以外の音階)の音楽又は楽曲を演奏するための鍵盤で、下段と同一の高さの鍵盤は下段に配列された鍵盤をもって共用するようにしたものである。

そして、前記のとおり、本件発明にいう「性格の異なる2つの5音音階の鍵盤を組み合わせた」とは、性格の異なる5音音階の鍵盤列二つを上段と下段の2列に配列することに限定されず、また、性格の異なる二つの5音音階のみを演奏するための鍵盤列を配列することに限定されず、5音音階を演奏するための鍵盤列が1組又は1列配列されていると同時に、性格の異なる二つの5音音階を演奏するための鍵盤(それのみを演奏するためのものに限らない。)が設けられていればよいものであるから、上記鍵盤楽器は、いずれも、本件発明の要件を満たすものといわなければならない。

3  よって、本件発明は、その出願前頒布された刊行物に記載の発明及び出願前公知公用の楽器と同一の発明、ないしは、少なくともそれに基づき当業者であれば何らの発明力を要しないで容易になすことができた発明というべきである。

したがって、本件特許は、特許法29条1項各号及び2項の規定に違反してなされたもので、これと異なる結論の審決は取消しを免れない。

第4  被告主張の要点

審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がない。

1  取消事由1について

本件明細書には、以下の記載がある。

「従来のピアノ、オルガン、電子楽器等の鍵盤楽器は、西洋音楽の長音階と短音階を構成する7音階を主体とする配列の鍵盤を有しているが、このような楽器を使用して5音音階を主体とする邦楽の演奏をすると、1オクターブの内で2つの鍵盤が余分になるので、演奏の誤りを生じやすく、不便であった。」(甲第3号証1欄20~26行)

「本発明はそのような実情に鑑み、上記の邦楽の音階その他の5音音階を主体に配列した鍵盤を有し、これらの性格の異なる音階のうち、邦楽の愛好者が精通している関係にある音階を上下に組み合わせたことを特徴とする鍵盤楽器に係るものである。」(同3欄11~16行)

「本発明は、上記のように、邦楽は第3図に示すような系列の音階と第4図に示すような系列の音階の2系列あることに着目し、ヨナ抜長音階、陽音階及び民謡音階等を演奏し易いよう配列した5音音階の鍵盤列1と陰音階及びヨナ抜短音階等を演奏し易いよう配列した5音音階の鍵盤列2を2段に組み合せて構成したものである。」(同3欄30~37行)

そして、本件明細書で用いられている5音音階の鍵盤とは、第1図~第3図に示す5音音階の説明からも明らかなように、1オクターブの中に五つの音をもつ音階の鍵盤を意味しているから、その鍵盤列中に余分な鍵盤が含まれていたり、複数の鍵盤の中から所要の鍵盤を選択することにより5音音階が構成されるようなものを意味するものでないことは明らかである。

したがって、原告が主張するように、「5音音階を演奏するための鍵盤列が1組又は1列配列されていると同時に、性格を異なる2つの5音音階を演奏するための鍵盤が設けられていればよい」と拡大解釈することはできない。

仮に、原告主張のように、下段の1組の5音音階の鍵盤列の一部を共用して上段の他の性格の異なる5音音階を構成したとすると、「ラ、シ、ド、レ、ミ、ファ、ファ#、ソ、ラ」の8音音階の鍵盤列が構成され、その一部を使用して民謡音階を演奏することになるから、本件発明の要旨である「性格の異なる2つの5音音階の鍵盤を組み合わせた」には該当しない。

さらに、原告主張のように、選択的に鍵盤を選んで5音音階が構成されるものも本件発明に含まれるとすると、ピアノやオルガンの7音音階の鍵盤列も本件発明に含まれると解さなければならなくなり、原告の主張が誤りであることは明らかである。

なお、原告は、本件明細書の上記記載及び第10図によれば、第10図の一点鎖線は、単に共用してもよい上下の鍵盤を示しているにすぎない旨主張するが、図面は本件発明の実施例を示し、第5図~第12図は、それぞれ本件発明の鍵盤楽器の鍵盤を示す説明図である。そして、各図において、矩形枠で示された部分は、一つの鍵盤の形態や配置を示したものであるから、第10図において一点鎖線で示された矩形枠の部分も一つの鍵盤の形態や配置を示したものであることは明らかである。

さらに、原告は、上記第10図及びそれに関連する記載から、本件発明は、そもそも上下二段に配列された鍵盤はそれぞれ併用されるものであること、及び併用されうることを前提としている旨主張するが、上記第10図においては、5音音階の鍵盤列にした場合に演奏できなくなる「阿波踊り」や「黒田節」等の通常の邦楽の5音音階によらない邦楽を、性格の異なる二つの5音音階の鍵盤列の組み合わせを変えることにより演奏できるようになる、という応用例を示しているにすぎない。

したがって、審決の本件発明の要旨の解釈は正当であり、審決の認定に誤りはない。

2  取消事由2について

前記のとおり、本件発明においては、「性格の異なる2つの5音音階」はそれぞれ5音音階の鍵盤列を構成するものでなければならないところ、原告引用の、「詩吟用コンダクター」、「邦楽コンダクター水晶」及び「詩吟トレーナーST-10」の各上段の鍵盤配列は、いずれも、その上段の配列された鍵盤のみを見るかぎり、それだけでは5音音階の鍵盤、つまり5音音階の音楽又は楽曲を演奏するための鍵盤配列になっていない。

したがって、上記各鍵盤楽器は、本件発明と同一でないことは明らかであり、また、これらの公知公用のものから本件発明が当業者によって容易に発明できたものでもない。

3  本件発明に新規性及び進歩性がないとする原告の主張は、いずれも失当であり、審決の判断に誤りはない。

第5  証拠関係

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立については、甲第1号証~第15号証並びに甲第20号証及び21号証の官署作成部分については当事者間に争いがなく、その余の書証の成立(甲第18号証及び19号証は原本の存在とも)については弁論の全趣旨によりこれを認める。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1について

(1)  本件明細書(甲第3号証)の発明の詳細な説明には、本件発明の技術的課題(目的)及び作用効果について、以下の趣旨の記載がある。

<1> 「本件発明は邦楽を演奏し易くした鍵盤楽器に関する。

従来のピアノ、オルガン、電子楽器等の鍵盤楽器は、西洋音楽の長音階と短音階を構成する7音階を主体とする配列の鍵盤を有しているが、このような楽器を使用して5音音階を主体とする邦楽の演奏をすると、1オクターブの内で2つの鍵盤が余分になるので、演奏の誤りを生じやすく、不便であった。」(甲第3号証1欄18~26行)

例えば、「汽車ぽつぽ」、「夕焼けこやけ」、「春よ来い」等のヨナ抜長音階の曲、「かごめかごめ」、「あんたがたどこさ」、「山寺の和尚さん」等の陽音階の曲、「ソーラン節」、「ドンパン節」、「おてもやん」等の民謡音階(尺八音階)の曲においては、西洋音階のファとシが余分となる。

一方、「さくらさくら」、「東京音頭」、「会津磐梯山」等の陰音階の曲、「五木の子守歌」、「浪曲子守歌」、「麦と兵隊」等のヨナ抜短音階の曲においては、西洋音階のソとレが余分になる。(同1欄26行~3欄6行)

<2> 「邦楽愛好家の実情を考察すると、上記5種類の音階全般を通じて精通する場合は少なく、そのうちの1つ若しくは2つの音階に精通することが多い。

本発明はそのような実情に鑑み、上記の邦楽の音階その他の5音音階を主体に配列した鍵盤を有し、これらの性格の異なる音階のうち、邦楽の愛好者が精通している関係にある音階を上下に組み合わせたことを特徴とする鍵盤楽器に係るものである。」(同3欄7~16行)

<3> 「上述のように、ヨナ抜長音階、陽音階及び民謡音階(尺八音階)の場合は、西洋音楽のフアとシが余分であるから、第3図に示すように、フアとシを除いた5音音階の鍵盤の配列が考えられ、また陰音階とヨナ抜短音階の場合は、西洋音楽のソとレを除いた第4図に示すような配列の5音音階の鍵盤配列が考えられる。第3図、第4図に示すような配列の鍵盤を有する楽器を各音階毎に用意すれば各音階の邦楽を誤りなく演奏することが容易になるが、複数用意しなければならないから、例えばヨナ抜長音階の曲を演奏したり、ヨナ抜短音階の曲を演奏したりするというときに、その都度楽器を交換しなければならず不便である。

そこで、本発明は、上記のように、邦楽は第3図に示すような系列の音階と第4図に示すような系列の音階の2系列あることに着目し、ヨナ抜長音階、陽音階及び民謡音階等を演奏し易いよう配列した5音音階の鍵盤列1と陰音階及びヨナ抜短音階等を演奏し易いよう配列した5音音階の鍵盤列2を2段に組み合せて構成したものである。」(同3欄17~37行)

<4> 「本発明の楽器は上記のように邦楽の性格の異なる各種の5音音階の鍵盤を隣接して設けたから、「汽車ポッポ」、「かごめかごめ」、「ソーラン節」、「さくらさくら」、「五木の子守歌」その他のヨナ抜長音階、陽音階、民謡音階、陰音階及びヨナ抜短音階等の邦楽曲を誤りなく演奏することができる。」(同3欄38~44行)

<5> 「本発明は以上のように構成され、邦楽を演奏しやすい鍵盤楽器が提供される。」(同6欄3行~4行)

(2)  ところで、本件発明の要旨である「5音音階を主体に配列した鍵盤を有し、性格の異なる2つの5音音階の鍵盤を組み合わせたことを特徴とする鍵盤楽器」のうち、「5音音階」とは、上記<1>の記載からも明らかなように、西洋音楽の長音階と短音階を構成する7音階と区別されて一般に用いられているところの1オクターブの中に五つの音をもつ邦楽の音階を意味しているから、「5音音階を主体に配列した鍵盤」とは、この1オクターブの中に五つの音をもつ邦楽の音階を主体に配列した鍵盤を意味するものと理解される。

次に、「性格の異なる2つの5音音階の鍵盤」とは、ある一つの性格を有する5音音階の鍵盤と、これとは異なる性格を有する5音音階の鍵盤とを意味するものと解せられるが、このような「性格の異なる2つの5音音階の鍵盤」の意味内容や、これらの鍵盤を「組み合わせた」ことの技術的意義については、特許請求の範囲の記載からだけでは明らかではないといわざるをえないので、本件発明の詳細な説明及び図面を参酌して、その意味内容や具体的構成を検討することとする。

そこで、前認定の本件明細書の発明の詳細な説明の記載、特に上記<1>~<3>の記載に照らすと、本件発明は、邦楽の音階にはヨナ抜長音階、陽音階及び民謡音階(尺八音階)という西洋音階のファとシが余分となる系列と、陰音階及びヨナ抜短音階という西洋音階のソとレが余分となる系列との2系列があることに着目し、邦楽愛好家が上記5種類の音階のうち一つ若しくは二つの音階に精通していることが多いという実情を考慮して、これらの二つの系列の5音音階からなる邦楽を一つの楽器で演奏できる鍵盤楽器を提供するという目的を達成するためになされた発明であって、上記<4>、<5>記載の効果を奏するものと認められるから、上記特許請求の範囲の「性格の異なる2つの5音音階の鍵盤を組み合わせた」との記載は、邦楽愛好者が精通している性格の異なる二つの系列の邦楽の5音音階の鍵盤列を備え、これを組み合わせたことを意味し、その組合せの態様は特に限定していないものと解される。

(3)  原告は、本件特許請求の範囲には、鍵盤の構成、配列を特に規定する記載はないから、5音音階を演奏するための鍵盤列が1組又は1列配列されていると同時に、性格の異なる二つの5音音階を演奏するための鍵盤が設けられていればよいとし、また、ある鍵盤列から選択的に鍵盤を選び、これを使用して5音音階を構成することができるような鍵盤列も本件発明の要旨に含まれる旨主張する。

しかし、このように解すると、ピアノやオルガン等の白鍵からなる暗音階「ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ド」の鍵盤列も、例えば「ミ、ファ、ラ、シ、ド、ミ」の5音音階(陰音階)及び「ラ、ド、レ、ミ、ソ、ラ」の5音音階(民謡音階)という性格の異なる二つの5音音階を演奏するための鍵盤列を同時に有するものであるから(なお、白鍵と黒鍵とを選択的に組み合わせて5音音階を構成することも可能であるし、黒鍵のみで一つの5音音階が構成されていることも明らかである。)、ピアノやオルガン等も本件発明の要旨に含まれると解釈せざるをえなくなるが、これでは邦楽を演奏し易くする鍵盤楽器を提供するという本件発明の目的に合致しないうえ、前記1オクターブ中に余分な鍵盤を含むことになり、演奏の誤りが生じやすく、従来技術の改良になっていないから、本件発明の趣旨にそぐわないことは明らかである。

したがって、原告の上記主張の解釈を採用することはできない。

(4)  また、原告は、本件明細書中に「第7図に示すような組み合せにおいて、宮音の位置を上下一致させると共にそれぞれの宮音の音の高さを同一にすると、第10図に示すような鍵盤の配列となる。なおこの場合同じ高さの上下の鍵盤を一つにしてもよい。」と記載されている(甲第3号証4欄26~31行)こと及び第10図によれば、第10図の一点鎖線は、上段と下段にまたがるような形態で同じ高さの上下の鍵盤を一つにしてもよいといっているのではなく、単に共用してもよい上下の鍵盤を示しているにすぎないことは明らかである旨主張する。

しかし、本件明細書において、その実施例である第5図~第12図の各図面において、矩形枠で示された部分は、一つの鍵盤の形態や配置を示したものであることからして、第10図において一点鎖線で示された矩形枠の部分も一つの鍵盤の形態や配置を示したものであると解される。

よって、この点に関する原告の主張も理由がない。

(5)  さらに、原告は、上記第10図及びそれに関連する記載から、本件発明は、そもそも上下二段に配列された鍵盤はそれぞれ併用されるものであること、及び併用されうることを前提としているものというべく、その意味から、本件発明にいう「性格の異なる2つの5音音階の鍵盤を組み合わせた」とは、かかる併用により性格の異なる二つの5音音階を演奏できる鍵盤楽器をも包含しているものといわざるをえない旨主張する。

しかし、本件発明の要旨は、「5音音階を主体に配列した鍵盤を有し、性格の異なる2つの5音音階の鍵盤を組み合わせたことを特徴とする鍵盤楽器」であり、前示のとおり、2つの5音音階の鍵盤列は必須の構成であって、第10図の実施例は、このような鍵盤列にすれば、「通常の5音音階では演奏できなかつたような曲も演奏できるようになる」(甲第3号証4欄32~34行)、すなわち、ミーファーラーシードーレーミの6音音階の「阿波踊り」や、ミーファーソーラーシーレーミの6音音階の「黒田節」という、通常の5音音階では演奏できなかったような曲も演奏できるという、単なる応用例を示しているに過ぎないものと解される。

よって、原告の主張は、いずれも理由がない。

2  取消事由2について

前記判示のとおり、本件発明の要旨に示される「5音音階を主体に配列した鍵盤」とは、1オクターブの中に5つの音をもつ邦楽の音階を主体に配列した鍵盤を意味し、「性格の異なる2つの5音音階の鍵盤を組み合わせた」とは、邦楽愛好者が精通している性格の異なる二つの系列の5音音階の鍵盤列を備え、これを組み合わせたことを意味するものであって、本件発明は、この構成により、邦楽愛好者が精通している性格の異なる二つの系列の5音音階の邦楽を一つの楽器で誤りなく容易に演奏できる鍵盤楽器を提供するという格別の効果を奏するものである。

これに対し、引用例2(甲第5号証)に記載されている「詩吟用コンダクター」及び引用例8~12(甲第11号証~第15号証)に記載されている「邦楽コンダクター水晶」の下段の鍵盤配列(ラ、シ、ド、ミ、ファ、ラ、シ、ド、ミ)は、明らかに詩吟の音階である陰旋律5音音階の鍵盤配列であるが、前者の上段に配列されている鍵盤は、レ、ファ#、ソであり、後者の上段に配列されている鍵盤は、ファ、レ、ファ#、ソ、レであり、また、引用例13、14(甲第16号証、第17号証)に記載され、本件特許出願前に製造販売された「詩吟トレーナーST-10」の下段の鍵盤配列(ミ、ファ、ラ、シ、ド、ミ、ファ、ラ、シ、ド、ミ)も陰旋律5音音階の鍵盤配列であるが、上段に配列されている鍵盤は、ソ、レ、ファ#、ソ、レであって、これらの上段の鍵盤それ自体では、独立して邦楽が演奏できる5音音階の鍵盤を構成していないことが明らかである。したがって、これらの各鍵盤楽器によって、下段の陰旋律5音音階とは性格の異なる5音音階の邦楽を演奏しようとすれば、後者の5音音階を構成するに必要な音階の鍵盤のうち、上段の鍵盤列にないものは、下段の鍵盤列の中から選択して使用し、これと上段の鍵盤を組み合わせなければならず、本件発明の上記効果を有しないものであることが明らかである。

そうすると、本件発明の鍵盤楽器は上記各引用例に示さ れた各鍵盤楽器と同一であるということはできないし、本件発明の有する鍵盤列の構成及び組み合わせ並びにこれらがもたらす格別の効果に照らして、本件発明が各引用例から当業者が容易に発明をすることができたということはできないものと認められる。

したがって、これと同旨の審決の判断は正当として是認できる。

3  以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告の本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 山下和明 裁判官 芝田俊文)

平成3年審判第3305号

審決

埼玉県富士見市鶴瀬西3-15-48

請求人 有限会社 水光社

東京都中央区銀座6-7-16 岩月ビル8階

代理人弁理士 山田靖彦

東京都足立区東和2-15番6-109号

被請求人 永瀬憲治

東京都中央区銀座7-14-3 松慶ビル

代理人弁理士 井上清子

東京都中央区銀座7-14-3 松慶ビルデイング 井上清子特許事務所

代理人弁理士 亀川義示

上記当事者間の特許第1584923号発明「鍵盤楽器」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

審判費用は、請求人の負担とする.

理由

1、本件特許第1584923号発明(以下、本件発明という)は、昭和59年2月3日に特許出願され、平成2年2月23日に出願公告がされた後、平成2年10月31日にその特許の設定の登録がなされたのもであり、その要旨は、明細書および図面の記載からみて、その特許請求の範囲第1項に記載されたとおりの、

「5音音階を主体に配列した鍵盤を有し、性格の異なる2つの5音音階の鍵盤を組み合わせたことを特徴とする鍵盤楽器。」

にあるものと認める。

2、これに対し、請求人は、甲第1号証の刊行物(「吟詠詩集」昭和56年3月発行)、甲第2号証の刊行物(「詩吟の音楽的解説」昭和57年7月1日発行)、甲第3号証の刊行物(有限会社日本ディスク・スペースのバンフレット)、甲第5号証の刊行物(「吟剣詩舞」昭和55年10月号)、甲第6号証の刊行物(「吟剣詩舞」昭和55年12月号)、甲第7号証の刊行物(「吟剣詩舞」昭和56年8月号)、甲第8号証の刊行物(「吟剣詩舞」昭和56年9月号)、甲第9号証の刊行物(「吟剣詩舞」昭和56年11月号)、甲第10号証の刊行物(「吟剣詩舞」昭和56年12月号)、甲第11号証の刊行物(有限会社日本ディスク・スペースの「邦楽コンダクター・水晶」のパンフレット)、甲第12号証の刊行物(有限会社日本ディスク・スペースの「邦楽コンダクター・詩吟コンダクター」と題する販促用印刷物)、甲第13号証及び甲第14号証の刊行物(有限会社水光社の「詩吟トレーナーST-10」のカタログ)を提出するとともに、甲第3号証の刊行物が本件特許出願の出願前に日本国内において頒布されたことを証明するために甲第4号証(有限会社日本ディスク・スペースの会社謄本)を、甲第13号証及び甲第14号証の刊行物が本件特許出願の出願前に日本国内において頒布されたことを証明するために甲第15号証(M企画から有限会社水光社に宛てた甲第13号証の詩吟トレーナーカタログの請求書)及び甲第16号証(M企画から有限会社水光社に宛てた甲第13号証の詩吟トレーナーカタログの代金の領収書)を、甲第13号証及び甲第14号証の刊行物に記載されている「詩吟トレーナーST-10」が本件特許出願の出願前に日本国内において製造販売されていたことを証明するために甲第17号証(物品税一定率適用確認申請書)及び甲第18号証(昭和59年1月分物品税納税申告書)を提出し、さらに証人尋問を申請して、要するに、

「本件発明は、本件特許出願の出願前に日本国内で公知公用のものであり、かつ本件特許出願の出願前に日本国内で頒布された刊行物に記載された発明であるから特許法第29条第1項各号に該当し、あるいは、本件特許出願の出願前に日本国内で頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項に該当し、したがって、特許法第123条第1項第1号の規定により無効とすべきである。」

旨主張している。

4、そこで、請求人の主張を検討する。

(1)本件発明の「性格の異なる2つの5音音階の鍵盤を組み合わせた」という構成は、本件発明に係る特公平2-8317号公報(以下、本件公報という)の第1欄第21行目乃至第26行目「従来のピアノ、オルガン、電子楽器等の鍵盤楽器は、西洋音楽の長音階と短音階を構成する7音音階を主体とする配列の鍵盤を有しているが、このような楽器を使用して5音音階を主体とする邦楽の演奏をすると、1オクターブの内で2つの鍵盤が余分になるので、演奏の誤りを生じやすく不便であった.」、第3欄第11行目乃至第16行目「本発明はそのような実情に鑑み、上記の邦楽の音階その他の5音音階を主体に配列した鍵盤を有し、これらの性格の異なる音階のうち、邦楽の愛好者が精通している関係にある音階を上下に組み合わせたことを特徴とする鍵盤楽器に係るものである。」、第3欄第30行目乃至第37行目「本発明は、・・・ヨナ抜長音階、陽音階及び民謡音階等を演奏し易いよう配列した5音音階の鍵盤列1と陰音階及びヨナ抜短音階等を演奏し易いよう配列した5音音階の鍵盤列2を2段に組み合せて構成したものである.」、第3欄第38行目乃至第44行目「本発明の楽器は上記のように邦楽の性格の異なる各種の5音音階の鍵盤を隣接して設けたから、・・・その他ヨナ抜長音階、陽音階、民謡音階、陰音階及びヨナ抜短音階等の邦楽曲を誤りなく演奏することができる。」及び第5図乃至第12図の記載から判断すると、「性格の異なる2つの5音音階を演奏するための鍵盤を上段と下段にそれぞれ配列する」鍵盤配列を規定したものと解釈すべきである。

また、第10図の上段の鍵盤列と下段の鍵盤列とにまたがる一点鎖線の記載も考慮すると、本件公報第4欄第26行目乃至第31行目に記載の「上記第7図に示すような組み合せにおいて、宮音の位置を上下一致させると共にそれぞれの宮音の高さを同一にすると、第10図に示すような鍵盤配列となる.なおこの場合同じ高さの上下の鍵盤を一つにしてもよい。」という鍵盤配列は、「性格の異なる2つの5音音階を演奏するための鍵盤を上段と下段にそれぞれ配列する鍵盤配列であって、同じ高さの上下の鍵盤を上段の鍵盤列と下段の鍵盤列とにまたがる一つの鍵盤で共用する」鍵盤配列であり、本件発明に包含される鍵盤配列と認められる.

(2)一方、甲第2号証の刊行物には、下段に(ミ、ラ、シ、ド、ミ、ファ、ラ、シ、ド、ミ)の鍵盤を配列し、上段に(レ、ファ#、ソ)の鍵盤を配列した「詩吟用コンダクター」が記載され、甲第3号証及び甲第5号証の刊行物には、下段に(ミ、ラ、シ、ド、ミ、ファ、ラ、シ、ド、ミ)の鍵盤を配列し、上段に(レ、ファ#)の鍵盤を配列した「詩吟コンダクターマークⅡ」が記載され、甲第6号証及び甲第7号証の刊行物には、「詩吟コンダクターマークⅡ」と同一の鍵盤配列の「詩吟コンダクター・水晶」が記載されている。

なお、甲第3号証の刊行物が本件特許出願の出願前に日本国内において頒布された事実については、甲第3号証の刊行物に有限会社日本ディスク・スペースの住所地として東京都豊島区池袋2-1031と記載されていること、甲第4号証の有限会社日本ディスク・スペースの会社謄本仁よれば有限会社日本ディスク・スペースが東京都豊島区池袋2-1031に事務所を置いていたのは昭和55年9月30日迄であること、有限会社日本ディスク・スペースの詩吟コンダクターマークⅡの広告が甲第5号証の刊行物に掲載されていることから、これを認めることができる.

しかしながら、甲第1号証の刊行物の第4頁には「・・・詩吟は、都会的な哀愁より生まれたとされ、都節(みやこぶし)と呼ばれている日本独自の哀調をおびた陰旋法音階が最も適したものであり、本来のものと言わなければならない。よって、この陰旋法音階ラシドミファを確実に身につけることが最も重要な基本である.」と、同第5頁には「低・中・高と、七線譜を用い、第三線のミ(主音)のところを太線で明示し、ラシドミファラシドの陰旋法音階を線と線の間で示した.(猶、レソ抜き音階であるが、レ、ソを使用する場合はその線上に書いて表示することが可能である.)」という記載があり、また、甲第2号証の刊行物の第3頁には「詩吟はこの5音音階から現在の7音音階ドレミファソラシのレとソを抜いた5音音階となった.・・・以上の説明のとおり詩吟は「5音階法短調音階」である」と、同第35頁には「ミb←関西吟詩用に「レ#」か「ミb」が吟変り用に必要と思うが付いていない.」という記載があり、さらに、乙第10号証の刊行物(「吟剣詩舞」昭和56年11月号)の第7頁には「第二図を見てください。・・・また、低い「水」の音、高い「八」の音、中間の「二’」の音、「四」の音は、吟詠音階の中でも、特別な節まわしをつくるときに必要な音階です。」という記載がある。

これらの記載から判断すると、これらの刊行物には、単に「詩吟は、基本的に(ラ、シ、ド、ミ、ファ)の5音を使用するものであるが、(レ、ファ#、レ#、ミb)などの特別音を使用することもあるので、これに対応して、前記5音及び特別音を下段と上段にそれぞれ適宜配列して詩吟用鍵盤楽器を構成する」ことが記載されているにすぎないものと認められる.

したがって、甲第1号証乃至甲第3号証、甲第5号証乃至甲第7号証に「性格の異なる2つの5音音階を演奏するための鍵盤楽器」が記載されているとはいえない.

(3)また、甲第8号証乃至甲第12号証の刊行物には、下段に(ミ、ラ、シ、ド、ミ、ファ、ラ、シ、ド、ミ)の鍵盤を配列し、上段に(レ、ファ#、ソ、レ)の鍵盤を配列した「邦楽コンダクター・水晶」が記載され、甲第13号証及び甲第14号証の刊行物には、下段に(ミ、ファ、ラ、シ、ド、ミ、ファ、ラ、シ、ド、ミ)の鍵盤を配列し、上段に(ソ、レ、ファ#、ソ、レ)の鍵盤を配列した「詩吟トレーナーST-10」が記載されており、かつ、甲第8号証乃至甲第14号証の刊行物には、「詩吟以外の音楽も演奏可能である」旨の記載がある。

なお、甲第11号証及び甲第12号証の刊行物が本件特許出願の出願前に日本国内において頒布された事実については、甲第7号証乃至甲第9号証の刊行物に甲第11号証及び甲第12号証の刊行物に記載されている「邦楽コンダクター・水晶」と同一の「邦楽コンダクター・水晶」の実物写真入りの広告が掲載されていることから、これを認めることができ、甲第13号証及び甲第14号証の刊行物に記載されている「詩吟トレーナーST-10」が本件特許出願の出願前に日本国内において製造販売されていた事実については、甲第17号証の物品税一定率適用申請書により、これを認めることができる。

そして、甲第12号証の刊行物の第3頁に記載されている「吟詠の音程と音記号との対照例」を参照すると、前記「邦楽コンダクター・水晶」、「詩吟トレーナーST-10」は、上下の鍵盤を組み合わせることによって詩吟以外の音楽も演奏することができるものと認められる。

これらの記載から判断すると、甲第8号証乃至甲第14号証の刊行物には、「下段に陰旋律5音音階のための鍵盤を配列し、上段に他の音階のため鍵盤を配列し、同じ高さの鍵盤は下段の鍵盤をもって共用するようにした鍵盤楽器」が記載されているということができる.

しかしながら、甲第8号証乃至甲第14号証の刊行物には、本件発明の構成要件である「性格の異なる2つの5音音階を演奏するための鍵盤を上段と下段にそれぞれ配列する」構成については何ら記載もしくは示唆されていない.

(4)以上のとおり、甲第1号証乃至甲第3号証、甲第5号証乃至甲第14号証の刊行物には、本件発明の構成要件である「「性格の異なる2つの5音音階を演奏するための鍵盤を上段と下段にそれぞれ配列する」構成については何ら記載もしくは示唆されてなく、かつ、本件発明にこのような構成を備えることにより明細書に記載の如くの格別の効果を生じるものであるから、請求人の、「本件発明は、本件特許出願の出願前に日本国内において公知公用のものであり、かつ本件特許出願の出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明である」という主張、及び「本件発明は、本件特許出願の出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである」という主張は採用することができない.

なお、甲第1号証乃至甲第3号証、甲第5号証乃至甲第14号証の刊行物には、本件発明に係る「5音音階を主体に配列した鍵盤を有し、性格の異なる2つの5音音階の鍵盤を組み合わせた鍵盤楽器」が記載されていないことが明らかであるから、証人尋問は行わない.

5、以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許を無効とすることはできない。

よって、結論のとおり審決する.

平成4年4月2日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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